金大講義ファイナル・歴史教材の核心とは!?

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 早いもので、金沢大学の講義も今回がラストを迎えることとなりました。あっという間の半年間でありましたが、充実した半年間でもありました。

 今まで小学生とのやりとりばかりでしたから、大学生とのやりとりそのものが新鮮でした。私が伝える社会科の面白さ、教育現場でのナマの体験話は、打てば響く感覚があり、私自身が学生の反応を楽しみながら講義できたことが何よりの「やりがい」「生き甲斐」にも通じるひとときだったと思います。

 さて、今回ファイナルの講義は、〝歴史教材の核心〟についてです。写真にあるのはプレゼンの表紙ですが、日露戦争における日本海海戦の主役・東郷平八郎を中心にした風景画を掲載しました。

 日露戦争こそ、当時の日本の国難でした。大国ロシアと闘うという無謀にも見える戦争に挑み、当時世界ナンバーワンの強さを誇るバルチック艦隊を相手に、東郷平八郎率いる連合艦隊が圧勝!それを称え、ロシアの植民地支配を受けていたフィンランドでは、〝東郷ビール〟が今もなお販売されています。日露戦争から110年も経っているのにもかかわらず・・・。(ちなみに、バルチック艦隊撃破後、フィンランドはロシアからの植民地支配から脱し、独立を果たしています)

 東郷平八郎のように、歴史教材は、〝人物〟に焦点を当てることで、ストーリー性のあるドラマチックな学習を展開することができます。

 学生たちは、中学校~高校と〝通史学習〟中心に、できごとの因果関係を繋ぎ合わせながら学習してきました。しかし、小学校の歴史教育は、時代ごとのイメージを、ある人物を中心につかんでいく流れとなります。奈良時代なら〝聖武天皇〟、平安時代なら〝藤原道長〟というように・・・。

 ところが、幕末~明治以降、やたら人物が多く登場します(;_;)/~~~

  西郷隆盛  大久保利通  木戸孝允  坂本龍馬  勝海舟  福沢諭吉 ・・・ etc.

 いくら歴史上の人物を中心にといっても、多くあり過ぎて、子どもたちも先生も消化不良となります。この時代から、教師は「教えにくくなる」し、子どもは「歴史嫌い」に陥りやすくなるのです。

 そこで、大切になるのは、〝人物の焦点化〟です。

 上記に列挙した中で、誰を中心人物にするとよいか。学生たちに考えさせましたが、バラバラです。自分の好きな人物を選んでいる学生がほとんどでした(笑)

 選ぶポイントは、「海外を見てきた人物」であり、「明治政府にかかわる」人物です。

 となると、答えは〝大久保利通〟となります。彼は、岩倉使節団の一員としてヨーロッパ中心に回ってきました。彼の渡欧での最大の感動したことは、〝イギリスの工場〟です。工場から産み出される船や鉄鋼、蒸気機関などに圧倒され、「国を富むことで、強い国づくりができる」と確信したのです。

 よって明治政府は、〝富国強兵〟のもと、殖産興業を推し進めたのです。たとえ親友の西郷隆盛と敵対することになってでも・・・。

 私は教師時代、〝福沢諭吉〟を中心人物として選択したことがあることも伝えました。

 福沢諭吉はアメリカに渡っています。彼の渡米の最大の関心事は、「初代大統領ワシントンの孫が誰であるか、国民は誰も知らない」ことに驚いたことです。つまり、日本では徳川家の子孫が歴代の殿様でした。身分制度が明確に区別されていたからです。子孫が誰かは日本国民全員が周知のことでした。

 しかし、アメリカではそれすら知らない。誰もが一般市民でも大統領になるチャンスがある、民主主義の国であることに、諭吉は感動し、「学問のすすめ」「西洋事情」などを執筆し、慶応大学を設立したのです。

 このように、歴史上の人物にスポットを当て、その人物の時代背景に伴う「強い願い」を知ることで、人物の行動や政策の意味付けが理解できますし、そこを核にして単元を汲むことの大切さを学生たちに伝えました。

 そのあと、学生たちには、次のような課題を与えました。

 渋沢栄一は、近代国家日本の〝資本主義の父〟と呼ばれている人物です。意外と学生たちは、新一万円札の肖像になったこの人物のことをほとんど知りませんでした(笑)

 そこで、プレゼンを通して、彼の主な生い立ちと経歴、そして偉業を10分間講義しました。

 「ええーっ、500以上もの会社を立ち上げたのですか!?」

 「その多くの会社は今も続いている会社が多く、ほとんど会社を人に預けているんですね~」

 「『論語と算盤』の著書を通じて、商売は道徳心がないと成り立たない!と主張し、利己主義への警鐘を促していたんですね(^_-)-☆」

 「関東大震災時には、25億円もの義援金(当時の国家予算の2倍を超える)を集めていたとは・・・オドロキです」

 「日米の懸け橋として〝青い目の人形〟運動を慈善事業として行っていたことも初耳でした!」

わずか10分の渋沢栄一伝の講義ではありましたが、学生たちは目からウロコ状態だったようです。

 渋沢栄一の渡欧は、幕末の慶喜家臣の折りに、「パリ万国博覧会」の視察の時に経験しています。この時に見た〝株式会社〟のシステムに彼は大きな感動を覚え、明治の〝殖産興業〟のけん引役となり、多くの株式会社の設立や銀行、保険会社、証券会社の設立に寄与することになります。

 さて、学生たちのアイデアは次の通り。

 アイデア➀ どうして渋沢栄一が、新一万円札になったのか? という課題で彼の偉業を調べる

 アイデア➁ 関東大震災から入り、25億円もの義援金を集めた渋沢栄一という人物とは何者?という導入で追及していく

 アイデア➂ 渋沢栄一のパリ万国博覧会で観た様子をVRで視聴し、「彼は何に驚いたのか!?」を予想させて、そこから彼の行動を追究していく

 ①はよくあるパターンですが、➁と➂は斬新でしたね~♫ 若い学生ならではの柔軟さを感じましたし、この子たちはこれまでの講義でだいぶ育ってきたんだなぁ、とも感じ、うれしくなりました(^^♪

 このあと、スペシャルプレゼンとして、「日本の5つの国難」を学生たちに紹介し、最後にこう告げて、ファイナル講義を終えました。(校長時代に若プロで見せたものです)

「みなさん、このニッポンには、資源らしい資源はほとんどありません。唯一あるのは〝人材〟です。この人材を人財にしていくのは、〝教育〟しかありません。みなさんは、将来ニッポンの教育者として成長していきます。資源のないニッポンだからこそ、子どもたちに夢と希望を与える教育を推進し、21世紀後半のニッポンを支えていく礎を築いていってください! 半年間、ありがとうございました」

学生たちの講義後のふり返りを一部紹介します。

「今回の講義を通して、社会科の人物は楚トーリーを学ぶことによって学習内容が入りやすくなり、人物同士の関りや社会状況との関係性など、人物を通して見えてくるものがあると実感しました。

 今までの講義を通して、例えば〝学級崩壊シリーズ〟では、学級が壊れないコツを実体験を通して具体的に教えてくれたり、〝現代社会の問題点深堀シリーズ〟においては、社会問題の新しい一面を考えることができました。

 自分は、よい先生になれるか想像できなくて、とても不安だったけれど、先生の〝下手でもいいから一生懸命取り組めば、子どもたちに必ず伝わる〟〝頭でっかちにならずに、子どもたちと一緒に経験を積み重ねていけばいい〟という話に、少し肩の荷が降りた気がしました。

 まだ不安はあるし、やったことがないことがたくさんあるので、挑戦の日々になっていくことと思うけれど、先生から学んだことを忘れずに、自分なりに一生懸命取り組み、子どもたちとともに成長できる教員になりたいと思います。

 半年間、本当にありがとうございました。」

涙ちょちょぎれるふり返りに、感動・・・(;_;)/~~~

これまでの学生たちが書いてくれたレポート(14回分)は、私の宝物になりました(^_-)-☆

今回出会った88名の学生たちは、2年後、日本のどこかで教師となり、教壇に立ちます。

私は、この子たちを本気で支え、応援していくつもりです。がんばれ、未来の教師たちよ!

松下教育研究所は、きみたちの未来を全身全霊で支えていきます♫

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