松下幸之助「子育て論」③

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長所とか短所とかいうものに一喜一憂する必要はありません。それよりも、
おおらかな気持ちでそれぞれの持ち味を生かす方が大切です

            『親として大切なこと』(PHP 文庫 松下幸之助)より一部抜粋

 人は誰もが、程度の差こそあれ、長所と短所をあわせもっています。
 人はときにその長所を誇り、短所を嘆いて、優越感に浸ったり劣等感に悩んだりします。
 しかし、よくよく考えてみれば、この長所とか短所とかいうもの、それによって深刻に
一喜一憂するほどに絶対的なものでしょうか。
 お互いの日々の生活においては、長所がかえって短所になり、短所が長所になるような
ことがしばしばあります。

 経営者の人たちについてもそのような例をよく見かけます。
 経営者の中には、知識も豊富で話もうまく、行動力も旺盛といった、いわゆる〝口八丁、
手八丁〟と言われる人がいます。そういう優れた能力を備えた人が経営者であれば、その
会社は間違いなく発展していくように思われます。
 

 しかし、実際には必ずしもそうでない場合が案外多いのです。反対に一見、特別にこれ
といったとりえもなく、ごく平凡に見える経営者の会社が、流々と栄えていることもよく
あります。
 どうしてそのようなことになるのか。非常に興味のあるところですが、それは結局、経
営者の長所が短所となり、短所が長所になっているということではないかと思うのです。
優れた知識や手腕を持つ人は、何でも自分でできるし知っていますから、仕事を進める
にあたってもいちいち部下に相談したり意見を聞いたりということをしない傾向にありま
す。それどころか、部下のせっかくの提案を、「そんなことは分かっている」とカンタンに
片づけてしまうことさえあります。
 その結果、部下は進んで意見を言わなくなり、ただ〝命に従う〟といった姿勢で仕事に
当たることになります。それでは、各人の自主性も生かされず、衆知も集まりませんから、
力強い発展が生まれないのは明らかでしょう。
 また、そのような経営者には、部下のやっていることがまだるっこしくて仕方がない、
自分でやった方が早い、ということで仕事をあまり任せない傾向にあります。あるいは、
仮に任せても、いちいち細かく口出しをする。そうすると、部下はやる気をなくします。
優れた人材に育つということも極めて少なくなってしまいます。そうなると、会社の発展
が妨げられてしまうわけです。

 一方、一見平凡に見える経営者の会社が発展するというのは、その反対の姿があるから
でしょう。何でも自分で決めたりやったりするのではなく、部下の意見をよく聞き、相談
をかけ、仕事を任せる。そのことによって全員の意欲が高まり、衆知も集まって、そこに
大きな総合力が生み出される、といった経営を進めているわけです。
 このように長所が短所に働き、短所が長所に生きるということは、企業の経営に限らず、
お互いの日々の中においても、ままあるのではないでしょうか。
 ということを考えるとき、お互いに長所とか短所にこだわる必要はあまりなく、その長
所も短所も、人それぞれに与えられた〝天与の個性〟〝持ち味の一面〟であると考えるこ
とができます。
 よって、基本的には、長所と短所にあまり一喜一憂せずに、おおらかな気持ちで、自分
の持ち味全体を生かしていくよう心がけることが、より大切なことではないかと思うので
す。
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『編 集 後 記』
 私が校長になったばかりの時、引退された元校長先生から、次のように諭されたことが
あります。
「どうしても自分で仕事をやってしまおうとするやろ。校長 2 年目までは、何でも自分
でやってしまう傾向が出るんや。でも、校長は、人に仕事を任せてナンボの世界や。
いずれ分かるよ。」

 そうなんです。私は校長になった時、何でも自分でやらないとそわそわして落ち着かな
いところが多分にありました。それをすると、教頭先生も育たない、主任も育たない、部
下も育たない…ということに気づかされたことがあります。
 智慧多きみなさんならば、私のようなことはないかと思うのですが、校長をしていて、
〝鈍感力〟というものの必要性を痛感しておりました。校長は、一見鈍そうにしていてい
いのです。気づかないふりをしていていいのです。部下が鋭い意見を言ってくれる、足り
ないところを気づいて進言してくれる。その瞬間をほめて、その気にさせていくことが、
校長として大切な資質である、と校長の役職の終わり際に気づいたという私でした。
 

〝おおらかな気持ち〟とは、「許し」「寛容力」に通じます。許せる人、寛容な思いで包
める人は、〝器のある人〟です。
校長としての器を広げていく日々でありたいものです。

                           学校のミカタ・松下教育研究

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